酒じゃ負けない。

 

  作家、伊集院静氏にはいろいろ逸話があります

 

 彼が銀座クラブで北の湖親方に会い、「相撲じゃ負けるが、酒では負けない」とばかり親方に酒飲みの挑戦をした。ウイスキーをストレートでゴクゴクと飲んだが、戦いが終わった後、へべれけになって、自分ではまったく歩けず、女の子に手伝ってもらった。こんなことは初めてだった。

 (伊集院静氏も北の湖親方も酒が強いことで有名ですが、どっちが勝ったのか気になります。私の推測ですが、伊集院氏の性格からして、負けた時は、負けた、相撲取りにはかなわなかった、等と書くのではないかと思います。従って、引き分け、あるいは伊集院氏の勝ちもあり得ると勝手に想像します。)

  

 やはり銀座で、横綱日馬富士に会い、酔って日馬富士に相撲で挑戦しようとしたが、流石に周りの人に止められ相撲が取れなかった。

 

 深酒した翌朝、ホテルのベッドの上で目覚めると、服は着たままだが、どういうわけか靴がない。まさか裸足で帰ってきたわけでもなかろうにと一生懸命探しても見つからない。まいったなあ、水でも飲もうかと冷蔵庫を開けたら、中に、キチンと靴が揃えられて入っていた。

 

 (私ではなく)人相の悪い編集者と一緒に、道を歩いていると、遠くの方から明らかに「其の筋」のような怖そうな人が歩いてくるものの、何故かさりげなく手前で横道にそれる。また、そのような人にたまに、路上で何故かキチンと挨拶されることもある。

 

 一人で、電車に乗ってただ座っているだけなのに、でれっと足を投げ出して向かいにすわっていた男が何故か段々と姿勢を正し、最後には、「申し訳ありません」と謝ってきた。

 

(氏の エッセイより)

 

 伊集院静氏は2023年11月に逝去されました。